子宮移植について

近年の生殖補助医療技術の発展により、多くの不妊症が治療可能となり、生殖補助医療技術により子どもを授かる不妊夫婦は増えています。しかしながら、不妊症の中でも子宮自体に異常があり、妊娠や出産できない女性(子宮性不妊症)が子どもを授かることは困難であるのが現状です。

その状況下の中、近年の移植技術、血管吻合技術、組織凍結技術などの向上により、子宮性不妊女性が子どもを授かるための1つの手段として「子宮移植」が考えられるようになり、子宮移植研究が進められています。この技術は永年の婦人科医の夢でした。動物実験においては、当教室の木須らがサルにおける子宮自家移植後の出産を世界に先駆けて報告しています。

海外においては、既に人での臨床応用が始まり、スウェーデンで母娘間の生体間子宮移植が行われ、トルコでは脳死ドナーからの子宮移植後の妊娠も報告されています。このように子宮移植は子宮性不妊女性に福音をもたらす新たな生殖医療技術として今後多いに期待される可能性があります。

 

しかしながら、子宮移植には他の生殖医療技術同様に、多くの医学的、倫理的、社会的問題が内包されており、その臨床応用にはこれらの課題が十分に議論される必要があります。また、生命倫理観は時代や技術開発と共に変化するものであり、新たな医療技術は不可測の倫理問題や社会的状況を産みだす可能性があることにも留意しなければならず、その臨床応用はその時代の生殖倫理や社会のニーズを慎重に確かめながら検討されるべきと思います。

*子宮性不妊症とは
子宮性不妊症は、子宮自体に異常を認めたり、子宮が存在しないもしくは存在しても機能しないために、妊娠・出産ができないことを言います。

(吉村 やすのり)

 

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