子宮頸がんワクチン訴訟に憶う

 727日、国と製薬会社に対して、子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)の接種で健康被害が生じたとして、1522歳の女性63人が、計94,500万円の損害賠償を求める訴訟を、東京、名古屋、大阪、福岡の4地裁に起こしました。原告は接種後に、全身の痛みや痙攣などの副作用が起きたとして、国にはワクチンを承認して接種を奨励したという注意義務違反が、製薬会社には製造販売責任があるとしています。接種と被害の因果関係が司法の場で争われることになります。
 2006年以降、これまでに、HPVワクチンは全世界で2億本以上が接種されています。これら接種により、子宮頸がん発症抑制効果を示すエビデンスが数多く発表されてきています。米国では、HPVワクチン導入以来1419歳の女性のHPV感染率が6割以上も低下しています。オーストラリアでも同様の効果が報道されています。頸がんの発症リスクの低下は、年齢が若いほど顕著であるとされています。HPVワクチン接種に関しては、世界で承認された後13年以上にわたって副反応や合併症に関してモニタリングがなされてきています。その結果、WHOや日本以外の各国の規制当局においても、特定の症状とHPVワクチン接種との因果関係及び科学的根拠は認められないと結論づけられています。日本産科婦人科学会や日本小児科学会など17の学術団体は、今年の4月に「国内の女性ががん予防の恩恵を受けられず、極めて憂慮すべき事態である。」との声明を出しています。
 有害事象があることを認識することは大切です。副作用を訴える女性に対し耳を傾け、治療にあたることは言うまでもないことです。しかし、医師や科学者、行政は、慎重にモニタリングを続けながらも、科学的根拠に基づく安全性の評価をしなければなりません。副作用の被害を訴える女性の憶いは理解できないわけではありません。しかし、子宮頸がんの発症を確実に予防することができる手段があるのに、それを若い女性に提供しないという事態は避けるべきと思われます。ワクチン接種を勧奨しないままにしておいて、若い女性が命を落とすような事態が起きた場合、誰が責任を取るのでしょうか。決断する際には、目前の利害にとらわれず、総合的、俯瞰的視野に立脚した判断が求められます。

(吉村 やすのり)

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