「女性手帳」報道に憶う―Ⅰ

内閣府の少子化危機突破タスクフォースが、妊娠や出産の知識を広めるための「生命と女性の手帳」(仮称)を若い女性に配ることを考えているとの報道がされました。今月上旬にこの案が報道された後、「少子化対策としての女性手帳の発行は本末転倒である」「産むか、産まないかに国が口を出すのか」「個人の生き方への介入につながりかねない」といった批判が相次ぎました。「少子化は女性だけの責任ではない」「少子化対策なら雇用や保育が先ではないのか」といった意見もみられました。いずれも御尤もな意見です。報道にはさまざまな点で誤解もあったが、結果的にはこの女性手帳を巡って、国民の一人一人が子どもをもつこと、家族のあり方や個人の選択の自由など、もう一度と考え直す機会となったことは良かったのではないかと思っています。

そもそもこの手帳の発想は、タスクフォース下での「妊娠・出産検討サブチーム」の議論の中から生まれました。このサブチームでは、「妊娠・出産に関する知識普及・教育」「妊娠・出産に関する相談・支援体制の強化」「産後ケアの強化」の3つの施策が検討されました。その中で最も重要なことが知識の普及と教育であり、女性自身に自分の体のしくみを知ってもらうためにはどのような方法を考えるかが熱心に議論されました。これまで産婦人科に40年関わってきた一人の医師として、女性が生殖現象である月経、妊娠:出産など女性のからだについての知識がないことが問題であると常々痛感していました。これには当然のことながら我々産婦人科医にも責任があり、啓発を怠ってきたことを反省しなければなりません。

女性の生殖機能には適齢期があることを教育してこなかったということです。子どもをつくるためには男女の協力がなければならないことより、これは女性だけの問題ではありません。生殖機能に関してこれまでの学校教育が全く十分でなかったため、女性は知識を得る手段がなかったと考えられます。学校では性感染症や避妊に関する教育は行われてきましたが、妊娠や出産に関する教育は欠如していました。子どもをどう持つか、どのように育ててゆくか、さらには女性のトータルライフを考える上で女性のからだはどのように変化してゆくかといった情報は全く与えられていませんでした。これまであらゆる講演会や公開講座を通して我々産婦人科医は、生殖機能に関わる問題の重要性を喚起してきましたが、国民に偏く知らしめるには程遠い状況にありました。

つづく

(吉村 やすのり)

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