かかりつけ医の制度化に向けて

コロナ禍で注目されたかかりつけ医の議論は、40年近く前からくすぶり続けてきています。1985年、当時の厚生省が家庭医に関する懇談会を設置しましたが、日本医師会がフリーアクセスを損なうなどと反対し頓挫してしまいました。当時の議論では、国民が家庭医に登録することを前提とした英国の制度などが参考にされたためで、官僚統制や医療費削減への警戒感もありました。代わりに日本医師会が作り出したのがかかりつけ医です。登録制を避け、医師と患者の関係性だけを示す曖昧な言葉にしたと思われます。
日常の健康管理や初期診療を担ってくれる医師が身近に見つけられず、軽症でも大病院に行ったり、複数の医療機関を渡り歩いたりする人が少なくありません。医療費の浪費や病院医師らの疲弊にもつながっています。議論のきっかけは、コロナ禍で発熱患者の受診困難事例が相次いだことです。
財政制度等審議会は、曖昧だったかかりつけ医の役割を法で定義し、①要件を満たした医療機関を認定、②希望する患者が事前に医療機関に登録する制度を提言しています。一方、日本医師会は、認定・登録制に対し、患者の医師を選ぶ権利を阻害する乱暴な議論などと反発しています。厚生労働省は、現場で混乱が起きかねないとして、認定・登録制は見送り、情報公開制度の整備などにとどめています。
2025年には団塊世代が全員75歳以上となり、複数の慢性疾患を抱える患者が急増します。病院中心の医療から、地域で日常生活を支える医療への転換が求められており、かかりつけ医の重要性は増しています。かかりつけ医の整備は医療提供体制改革の重要な柱です。

 

(2022年12月20日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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