くも膜下出血の新しい治療法

脳血管疾患は日本人の3大死因の一つとされ、脳卒中患者は97万人ほどいます。約8割が脳梗塞患者、脳内出血は14万人、くも膜下出血は4万人を占めています。くも膜下出血は10万人あたり6~9人が発症するとされていますが、日本では22.5人と2~3倍ほど高いとの報告もあります。50~70代が多いのですが、20~30代の若年層でも起こることがあります。男性より女性の患者が多くなっています。
くも膜下出血は、脳内のくも膜下腔と呼ばれる部位で起こる出血で、脳血管のこぶである動脈瘤が破裂することで起こります。動脈瘤の大きさは数㎜~1㎝を超えるものまで様々です。ある程度の大きさまで成長すると、MRIやCTによる検査などで偶然見つかることもあります。大きいほど破裂リスクは高まりますが、1㎜ほどでも破裂することがあります。意識を失うケースもあり、死亡率は3割と高く、一命をとりとめても、半数近くの患者で半身まひや言語障害などの後遺症を残すことがあります。
発症早期に再出血するリスクが高いため、緊急手術を行います。動脈瘤の根元をクリップではさむ手術であるクリッピング術のほか、こぶ内部にコイルをつめる血管内手術であるコイリング術が主流です。このくも膜下出血に新しい治療法が開発されています。
出血に伴い放出された物質などの影響で、血管は収縮を起こしやすくなります。血管の収縮が起きると、血管が細くなるため血流が低下し、脳梗塞に陥ることがあります。血管の収縮による血流低下は、発症5~14日に起こることが多く、この時期に新薬であるピヴラッツを点滴投与します。ピヴラッツは、血管を収縮させる作用を持つエンドセリンの働きを阻害します。くも膜下出血後48時間までを目安に点滴を開始し、最大15日目まで1時間当たり10㎎の点滴を続けます。副作用としては、肺水腫など体液がたまりやすくなる症状があるため、適切な術後管理が必要になります。
これまで打つ手がなかった脳血管れん縮を予防できるこの画期的な薬が登場し、脳梗塞を回避し、健康寿命をまっとうするくも膜下出血患者の数も増える可能性が出てきました。最大15日の投薬で薬価は約240万円かかります。

(2022年8月2日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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