これからの社会と産婦人科医療―Ⅲ

医療のパラダイムシフト
女性は、生理的ライフステージによってホルモン状態が大いに変化し、エストロゲンと呼ばれる女性ホルモンの変化に伴って、さまざまな疾病が発生する。それらの疾病の概念は医学の進歩により、また時代とともに変化し得る。病態の解明や新しい治療法の開発などにより、疾病の診断および治療のみならず、予防といった新たなツールを提供することができるようになってきている。この新たな治療技術や科学手法の開発には、安全性や経済性のみならず、倫理的妥当性も評価されなければならない。また近年女性の社会進出が進み、妊孕性を考えるとき、子宮内膜症や子宮筋腫などの良性疾患のみならず、子宮頸がんなどの悪性腫瘍の存在を考えなければならなくなってきている。
われわれが専攻する産婦人科学は、次世代に向けた未来志向型の医療であると同時に、女性の生涯を通じてその健康に奉仕する総合支援型医療として、その職域の拡大が主唱されている。わが国も超少子・高齢化社会に突入し、疾病構造の変化に伴い、医療も治療から予防へとパラダイムシフトが起こってきており、健全で活力のある次世代を作ることが目標となっている。さらに臨床医は医療技術の進歩ばかりではなく、その診療の基盤となる科学的エビデンスに注目し、臨床に当たらなければならない。日常診療においても、いずれの領域であっても高いエビデンスに基づいた診療が要求され、治療の標準化が叫ばれ、診療の指針となるガイドライン作りが盛んに行われるようになってきており、その遵守が求められる。
産婦人科医師にとって、思春期から性成熟期、更年期を経て老年期に至る女性のライフステージを、トータルヘルスケアしていくことの必要性が強調されている。女性の健康を予防医療の一環としてとらえ、女性医学として発展させることが重要であり、女性医学の確立と定着を目指さなければならない。女性のヘルスケアには、単一臓器や器官のみならず、全身の系統的な機能評価に基づく予防法や治療法の選択が必要となる。さまざまな婦人科系疾患に対する、適正でかつ標準的な診断や治療の選択肢を提供することが大切となる。

(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。