アジアの国々の少子高齢化

 高齢化と低い出生率は先進国の問題と思われがちですが、実際には東アジアの国々でも広く見受けられるようになってきています。シンガポール、香港、韓国、台湾などの国々は、わが国よりも合計特殊出生率が低く、ベトナム、マレーシア、タイ、中国などの国も2を割っています。一方、アジアの国々の人的資本をみると、先進国に比べて極めて低率であることがわかります。25歳以上の人口に占める高等学校以上の修了者の比率は、人的資本の現在のストックを表し、大学など高等教育に在籍する就学率は、人的資本蓄積のフローを表すと解釈できます。いずれについても先進国と途上国の格差は大きいものがあります。
 今後アジアの国々でも、少子高齢化は大きな問題になることが予想されます。こうした国々においても、低所得世帯の子どもたちに十分な教育投資を確保する追加的な政策を導入することが必要になります。全労働者のうち、高等教育を受けた熟練労働者が占める比率は下がれば、長期的な経済成長にはマイナスとなります。これからの経済では、人的資本が成長の決め手であるにもかかわらず、途上国では一般に人的投資が十分に行われていない現状があります。低所得世帯の授業料免除や政府拠出の学生ローンなど、子どもの教育費に補助金を出す政策により、熟練労働者が増えて既存の熟練労働者は競争に直面する一方、未熟練労働者の満足度が高まります。結果として生産の拡大、税負担の軽減、社会的厚生の改善に結びつくものと思われます。人口の年齢構成比は大幅に変化しないものの、経済発展により、社会的厚生の水準は長期的に維持が可能となるかもしれません。
 わが国では、人口政策や社会保障制度の一環として児童手当などの現金給付により、子育て支援がなされています。子育て費用が減った分を他の目的に回せるため満足度は高いのですが、出生率の押し上げ効果は期待できません。政府が骨太の方針で揚げるような幼児教育の無償化は、子ども保険制度導入も含め、重要な少子化対策となりうると思われます。

(2017年5月30日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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