インターネットによる精子の取引

近年インターネット上で、精子の取引を持ちかけるサイトや書き込みが目立っています。不妊に悩む夫婦などが誘いに応じる例は少なくありません。医療機関の介在はないため、感染症の懸念が排除できません。ドナー不足で治療の機会を失った不妊に悩む夫婦や、非配偶者間人工授精(AID)の対象から外れる未婚者、同性カップルにとって、ネットを介した精子の提供は魅力的です。国立大学院卒、高身長など学歴や容姿を強調した書き込みが目立っていますが、そもそもネットに書き込まれた情報が事実である保証はありません。
現在、医療機関においては、AIDは6ケ月程度凍結保存した精液を使用します。AIDSなどの感染症を予防するために、ドナーの感染症チエックを2回した後の精液をAIDに用いています。インターネット上の取引による精液は、感染症のリスクが否定できません。精子の取引には安全面でのリスク以外に、売買の対象にしてよいのかという倫理上の問題があります。
全国に12カ所あるAIDの登録医療機関は2018年に3,380件の治療実績がありましたが、治療の約半数を占める慶應義塾大学病院が同年、ドナーの激減などを理由に受け付けを止めています。子どもに遺伝上の親を知る権利を認める動きの広がりとともに、非公表であるはずの身元が特定されることへの懸念が減少の背景にあります。
去年暮れの国会で、AIDを含む第三者を介する生殖補助医療に関する親子法が通過いたしました。今後は公的管理運営機関を設置し、ドナーのリクルート、精子の保管や提供などについてのガイドラインを策定する必要があります。こうした機関の設置が難しいということであれば、基準を設けた上で海外の精子バンクの利用を認めるなど、ドナー不足を解消し、誰もが公平に提供を受けられるよう、法律やガイドラインの見直しも含めて議論すべきです。

 

(2021年1月14日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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