ウイルスによる新しいがん治療

ウイルスを使って、がんを倒す新たな治療法が登場しています。新薬は第一三共のテセルパツレブで、悪性の脳腫瘍を対象に承認されました。
治療では、新薬をがんに注射すると、ウイルスはがん細胞に感染して増えます。がん細胞を壊して拡散し、次のがん細胞に感染して次々に破壊していきます。壊れたがん細胞からは、がんの目印となる物質が出て、免疫細胞がそれを認識し、残るがん細胞を攻撃します。がんへの免疫がつき、転移や再発を抑える可能性が期待されています。
治験では、手術や放射線、抗がん剤などの標準治療をした後に再発した脳腫瘍の一種、膠芽腫の患者を対象にしています。膠芽腫は悪性度が高く、再発しやすいがんです。生存期間は手術後15~18カ月程度、再発後の余命は3~9カ月程度と言われています。最大6回まで脳にウイルスを投与し、1年後の生存率は92.3%でした。標準治療後の生存率は約15%です。
ウイルスをがん治療に使おうとすると、ウイルスが正常な細胞でも増えて壊すという課題がありました。遺伝子組み換えでウイルスの性質を変え、がん細胞だけで増えるようにしています。細胞を壊す力が強く、どの細胞にも感染するので、様々ながんへの応用が期待できます。細胞から細胞に血液を介さず移るので、抗体があっても繰り返して治療効果が期待できます。

(2021年7月5日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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