ウイルス変異のしくみ

ウイルスの変異は珍しいことではありません。ウイルスは自力で増えることができず、人などの細胞に入り込み複製しなければならないからです。複製では、体内に持つRNAやDNAといった遺伝情報を記録した物質をコピーします。その際にコピーミスが起きて生まれるのが、変異したウイルスです。感染を続ける限り避けられません。
新型コロナの遺伝情報は、RNAに刻まれています。RNAは4種類の塩基という物資が数珠のように並んだ構造をしており、新型コロナは約3万の塩基からなります。コピーミスが起きる頻度はウイルスによって違います。しかし、変異しても必ず人に感染するわけではありません。コピーミスしても、ウイルスとして増えないこともあるからです。変異したウイルスがうまく増殖できれば、体外に出て他の人に感染し、変異は受け継がれていきます。新型コロナの変異が受け継がれる間隔は平均15日で、約3万ある塩基が1カ所ずつ変わっていきます。
こうした変異が厄介なのは、稀に感染力や病原性が強いウイルスが誕生するからです。感染力が強まると、同種のウイルスとの競争に勝って一気に広がります。英国型や南アフリカ型などの変異ウイルスが、現在は全体の4割を占め、勢力を増しています。変異したウイルスの感染力が高いかどうかは、どこの遺伝情報が変異したかで決まります。英国型や南アフリカ型は、ウイルスの表面にあるスパイクというたんぱく質で変異が起きています。スパイクはウイルスが細胞に侵入する際に細胞表面にあるたんぱく質とくっつき、感染の足掛かりになる重要な役割を持っています。英国型は、スパイクと細胞表面にあるたんぱく質がくっつきやすくなる可能性があるとされています。
昨年末から接種が始まったワクチンの効果は失われていません。今後心配されるのは、大きな変異を伴った新型コロナの誕生です。ワクチンや抗ウイルス薬の普及によって変異が加速する恐れもあります。しかし、免疫や抗ウイルス薬から逃れる変異ウイルスが広がると、感染力が逆に弱まることもあります。

(2021年1月29日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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