エネルギー安全保障を考える

ロシアによるウクライナ侵攻で、天然ガスや石油の供給不安から、エネルギー安全保障の意識が一気に高まり、化石燃料の増産が広がっています。資源国のロシアによるウクライナへの侵攻を受け、価格高騰や供給制約の懸念が強まり、エネルギー安全保障をどう守るかが喫緊の課題となっています。
エネルギー安全保障とは、社会経済活動に必要な石油や天然ガス、電気などのエネルギーを妥当な価格で、安定的に確保・供給することを言います。世界でエネ安保が強く意識されたのは、1970年代の石油危機です。各国の取り組みだけでは限界もあり、協調して対応する枠組みとして、先進諸国を中心に国際エネルギー機関(IEA)を創設しました。今回もIEAが主導する形で加盟国が協調して、石油の備蓄を放出するといった対策がとられました。
地下資源に乏しい日本にとって、エネルギー自給率の向上がエネ安保の観点で重要になります。原子力発電所は、国内保有燃料だけで発電できる準国産エネルギー源とみることができるため、日本の自給率は、1990年代後半から20%前後を維持していました。2011年の東日本大震災による原発停止を受け、2020年には、先進国の中でも最低水準の11%まで急落しました。欧州などは原発や再生可能エネルギーなどで、自給率を高めてきています。
侵攻以前、欧州は石炭の利用を減らし、脱炭素のつなぎ役としてロシア産のガスを増やしました。EU全体で消費量の4割をロシアに頼っています。侵攻により、脱炭素社会への移行戦略の危うさが露呈してしまいました。2月24日の侵攻後、欧州で石炭火力の発電が増えています。中でもドイツは、25%から37%に急上昇しています。ガスの高騰と供給不安で、安くて自国で賄える石炭への回帰が起きています。
温暖化ガス排出を実質的になくすカーボンゼロの議論は一時棚上げの状況に陥っています。カーボンゼロのようなエネルギー転換は、富の巨大な移転を起こします。既存の世界秩序を揺さぶり、あちこちに歪みを生みます。今回の危機はそんな現実を我々に突きつけています。

 

(2022年4月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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