ゲノム編集による難病治療

狙った遺伝子を改変するゲノム編集の技術を難病の治療に生かすため研究が進んでいます。英国のロンドン大学の研究グループが、CRISPR/Cas9という技術を使い、患者の体内で病気の原因となる遺伝子を壊すことに世界で初めて成功しています。
この難病は、トランスサイレチン型アミロイドーシスと呼ばれるもので、主に肝臓でつくられるたんぱく質トランスサイレチンが異常な形になってかたまり、アミロイドという繊維状になってしまいます。それが神経や心臓、肺などに付着してたまり、神経のしびれや心不全などの症状を起こします。症状があらわれると進行が止まらず、治療しなければ死に至る場合もあります。
多くは加齢とともに異常が出てきますが、まれにトランスサイレチンをつくる遺伝子に変異がある遺伝性の人もいます。遺伝性はとくに症状が悪くなりやすく、1990年代には肝臓移植による治療が始まっています。その後、アミロイドをできにくくする薬が開発され、さらにトランスサイレチンが細胞内でつくられることを妨害する核酸医薬も使われています。
グループは、患者の肝臓で異常なトランスサイレチンをつくる遺伝子をこわす臨床試験を実施しました。肝臓の細胞にとりこまれるように細工したCRISPR/Cas9の材料を血管内に注入しました。注入から28日目に血液を採ってトランスサイレチンの濃度を測定すると、50~80%減少していました。既存薬と同等の有効性が示されています。安全性にも大きな問題は確認されませんでした。
静脈に注射したゲノム編集の材料が特定の臓器に届き、実際に標的の遺伝子を壊せたのは、ブレイクスルーとなる成果と考えられています。

(2021年9月15日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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