ゲノム編集による難病治療

 ゲノム編集技術は医学・医療分野も大きく変えています。ゲノム編集を使えば患者の異常な遺伝子をピンポイントで修復できる利点があります。京都大学の研究チームとは、筋ジストロフィーの患者の体の細胞をiPS細胞に変化させて、最新のゲノム編集で遺伝子を修復し、健康な筋肉細胞を作ることに成功しています。この細胞を患者の体に移植すれば、筋力が回復する可能性が出てきます。米国では、エイズ治療でも臨床試験で好結果が報告され、血友病患者の体内で、直接ゲノム編集を使う方法の臨床試験も始まっています。
 もちろん予期できないリスクは残ります。ゲノム編集では、狙った場所とは異なる遺伝子を切断するミスによる遺伝子改変(オフターゲット効果)が起きる可能性があります。また、確認に時間と労力がかかります。最新技術のクリスパー・キャス9は、オフターゲット効果が起こりやすいのが欠点です。DNA2本鎖を切るので遺伝子も不安定になり、がんのリスクは上がります。
 医学研究や創薬分野での活用も期待されています。狙った遺伝子を改変したマウスなどの実験用動物を効率的に生み出すことができれば、病気の原因遺伝子を突き止めたり、薬の効果や安全性を確かめたりしやすくなります。病気のモデルとなる実験用動物をはじめ、ゲノム編集で遺伝子を遺伝子を改変した生物は、全国の研究機関や企業の実験室で作られています。遺伝子組み換えで作製した生物は法律で厳密な取扱いが定められていますが、ゲノム編集で遺伝子改変した生物の一部には明確な基準がありません。組み換え生物で実験する場合と同様の拡散防止措置が必要となります。

(2017年9月21日 毎日新聞)
(吉村 やすのり)

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