コロナ禍での富の形成格差

米金融大手バンク・オブ・アメリカが定義する世界のZ世代(1996~2016年生まれ)は25億人で、全人口の32%を占めています。デジタルやバーチャルを好み、人権・環境問題に敏感な彼らの存在はひときわ異彩を放っています。Z世代の総所得は、現在の7兆ドル(約770兆円)から、2025年には17兆ドルに膨らむと試算されていました。一方で、不平等や高齢化の割を食い、フラストレーションをため込む世代でもあります。
しかし、コロナ禍での都市封鎖や行動規制は、1990年代後半以降に生まれたZ世代から多くの機会を奪っています。学業の遅れや中断は、個人の成功だけでなく、国の人的資本の蓄積も妨げることになります。世界銀行によると、初等・中等学校の5カ月間の閉鎖は、生徒の生涯所得を1人当たり1.6万ドル減らす要因となるとしています。世界全体では10兆ドルの消失です。
米セントルイス連銀は、過去の趨勢から見て、米国民が2019年時点で得られたはずの実質資産を推計しています。1990年代生まれの実際の保有額は、理論値を50%下回るとしています。金融危機の影響もあって、Z世代の資産形成はほかの世代より遅れてしまいました。この悩みもコロナ禍で深まりかねない状況にあります。
このZ世代は、コロナ世代とも呼ばれるようになっています。中高年の有権者と政治家が影響力を行使する先進国の民主主義体制では、Z世代の声が届きにくい状況にあります。その不満や憤りは、米欧などに巣くう左右のポピュリズムの元になります。メンタルヘルス(心の健康)対策や教育・雇用支援を通してコロナ世代を癒せるかどうかに、世界の未来がかかっています。

(2021年7月13日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。