シルバー民主主義 ―Ⅰ

 シルバー民主主義とは、高齢者人口が増え、政治的影響力が大きくなることをいいます。この言葉は、昨今わが国で若い世代に比べて投票率が高い高齢者の選好が政治に大きく反映され、政策を歪んだものにしているという批判的意味合いを伴って用いられることが多くなっています。具体的には高齢化が社会保障財政の逼迫を招いているにも関わらず、政治は高齢者の反発を恐れ、この問題に正面から切り込んでいないと批判されています。
 その結果、巨額の政府債務を抱えて財政再建が急務であり、プライマリーバランスの黒字化を当面の目標としますが、その達成は遠のくばかりです。年金、医療などの社会保障給付が拡大する半面、少数派の若年層の意見が政治に反映されにくくなっています。また少子高齢化・人口減少が急速に進展する中で、少子化対策を拡充する必要性が認識されているにも関わらず、日本の家族政策に対する公的支出は国際的にみて低水準のままです。
 シルバー民主主義は民意の高齢化により生じます。政治的多数派を形成し、自らの利益の実現を図るのが民主主義の根本原理です。政党間の民意獲得競争を通じて、高齢化した民意が政党への圧力となります。高齢者が直接要求しなくとも、政党が票目当てに意向を忖度します。その結果、政治全体が、高齢者に受益が大きく偏る現在の財政・社会保障制度の抜本的な改革に極めて後ろ向きとなりやすくなります。将来世代や若い世代に負担を先送りし、社会の持続可能性の危機をもたらすことになります。

(吉村 やすのり)

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