ヒト胚発生に関与する遺伝子

 ヒトが受精卵から分化して正常に育つには、OCT4という遺伝子の働きが欠かせないことをヒトの受精卵を使用した研究で明らかになりました。生物の遺伝子を効率良く改変できるゲノム編集技術を使用しています。英国の研究チームは、不妊治療で余った受精卵に、クリスパーキャス9というゲノム編集技術を使い、OCT4を働かなくさせました。それにより、個体発生に重要な遺伝子や胎盤の発育に強い影響が表れ、着床前の状態である胚盤胞まで分裂しにくくなりました。
 OCT4は、体細胞を初期化してiPS細胞を作る際に発見した4つの遺伝子の1つです。ヒトの初期発生に関しては今もなおブラックボックスになっており、その分子的仕組みの一端を明らかにした意味は大きく、ゲノム編集ならではの成果といえます。現在でも原因不明で受精卵が着床しない例も多くみられます。こうした成果は、ヒトの体外受精などの成績向上や不妊の原因を探る上で極めて有用な手段となり得ます。ゲノム編集技術は、遺伝子の改変による難病治療のみならず、胚発生のメカニズムを探る基礎研究にも応用可能です。

2017年9月20日 Nature電子版
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。