リカレント教育の必要性

ここ数年、日本でリカレント教育への関心が急速に高まっています。リカレント教育とは、学校教育を終えて社会に出た個人がニーズに合わせて再び教育を受ける循環型・反復型の一種の生涯教育のことです。OECDが1970年代初頭に提唱しており、リカレント教育には、個人の生産性を高め、イノベーションや雇用機会を創出する効果があるとされております。
関心の高まりの背景はいくつか挙げられます。少子高齢化で労働力の量的拡大が望めない中、労働力の質的向上が求められています。技術進歩に伴い、これまでの知識やスキルが通用しなくなってきています。特にコロナ禍でのデジタルトランスフォーメーション化の進行により、人手不足と過剰が併存する雇用のミスマッチが顕在化し、企業が人材を有効活用して生産性を向上させることが喫緊の課題となっています。
25~64歳を対象としたリカレント教育の国別参加率を見ると、スウェーデンが64%、米国が59%、OECD平均が47%に対し、日本は42%と国際的にやや低率です。高等教育修了者の参加率に限ると、スウェーデンが80%、米国が79%、OECD平均が66%に対し、日本は56%と国際的に低い水準にあります。OECD諸国では、従来学校教育を十分に受けられなかった成人を対象とするリカレント教育である成人教育が重視されてきました。学歴が高いほどリカレント教育を受ける傾向があり、社会保障の観点から成人教育が積極的に推進されてきました。
日本では、高等教育を修了した人が学び直す場合、より専門的な知識・スキルを習得するため、従来の学校教育と補完的なリカレント教育が一般的でした。しかし、人材の有効活用や雇用のミスマッチ解消という観点からは、育児、介護などを経て再就職や復職を希望する人が、基礎的なビジネススキルを身につけることも大切です。異動や転職を希望する人が、新たな職場で求められる知識・スキルを学んだりするなど、従来の学校教育と代替的なリカレント教育が必要となります。
日本では、非正規雇用、シニア層、中小企業の従業員がリカレント教育を受けにくい環境に置かれています。家事・育児が忙しく自己啓発の余裕がない、正社員、正社員以外ともに25%超が費用がかかり過ぎるとしています。個人が時間的・金銭的制約に直面しています。企業が従業員にスキルの学び直し(リスキリング)の機会を提供する場合、成果が見込まれる労働者や技術・生産性の水準の高い労働者を対象とする傾向があります。
企業が大学など教育機関とともに、ニーズの高い業種で必要なスキルを学べる拠点を運営することにより、企業もリカレント教育に関与することが大切です。産学官連携により、社会人が社会ニーズに合ったリカレント教育を受けやすくなるような体制づくりが必要になります。受講成果を適材適所につなげて給与に反映させることも必要であり、それにより従業員の意欲が高まり、企業の生産性向上につながります。

(2022年10月20日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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