中年のひきこもりについて憶う

東京都練馬区の自宅で元農林水産事務次官が長男を刺殺したとされる事件や、川崎市多摩区で児童らが殺傷された事件は、中年のひきこもりを高齢者の家族が支える苦悩を浮かび上がらせています。内閣府は、3月に中高年のひきこもりの実態を初めて明らかにしています。40~64歳で、半年以上にわたり家族以外とほとんど交流せずに自宅でひきこもる人は、全国で推計61万3千人もおり、若年層(15~39歳)の同54万1千人を上回っています。約7割は男性でした。定年退職で社会との接点を失うケースのほか、若い頃からひきこもり状態が続く人も多くみられます。
支援体制は整いつつあります。厚生労働省が全国の都道府県や政令市に設置するひきこもり地域支援センターなど行政の相談窓口では、臨床心理士など専門職が電話などでカウンセリングをしています。本人が抱えている課題を第三者が整理し、医療や就労など行政サービスにつなぐ手伝いをしています。各地の家族会やNPO団体では、親や本人が当事者同士で思いや境遇を語り合ったり、専門家を招いて勉強会を開いたりしています。ひきこもり経験者が家族らに助言する取り組みもあります。しかし、家族や本人からのSOSが寄せられて初めて支援が始まります。情報がないと孤立する人を救い上げるきっかけをつかめません。
家族や当事者は、ひきこもりと犯罪を結びつける風潮が広がりかねないことも危惧しています。ひきこもりについて、恥ずかしいことではなく、誰も家族を責めたりはできません。地域の家族会や自治体に連絡してつながりを持つことが大切です。無関係な他者に危害を加えるような事態に至るケースは極めてまれです。

(2019年6月4日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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