乳がんに対する新しい治療薬の開発

乳がんは女性で最も多いがんです。国立がん研究センターの報告によれば、2018年に乳がんを患った女性は約9万4千人で、2019年に亡くなった人数も、女性のがんで5位でした。この乳がんの約2割を占めるHER2陽性と呼ぶタイプの患者向けに優れた新薬が登場しています。
HER2陽性で再発や転移した乳がんの場合、最初に使う抗がん剤は、HER2に付く2種類の抗体を薬にしたハーセプチン、パージェタと、従来薬のドセタキセルの計3種類でした。第一三共が開発したエンハーツは、乳がん細胞に多く出るHER2というたんぱく質に付く抗体に、8個の薬物を付けた抗体薬物複合体(ADC)という化合物です。3週間に1回、静脈に点滴で投与します。日本では、抗がん剤治療を経たHER2陽性の患者で、手術ができないか、再発して標準的な治療が難しい人が対象となります。
エンハーツの薬価は、100㎎あたり約16万5千円です。体重60㎏の人が1年間使うと、900万円程度の薬代がかかることになります。高額療養費制度を使えば、1カ月の個人負担は年収などに応じて抑えられます。しかし、適用が広がり使う患者が増えれば、医療財政への影響を懸念する声も出る可能性もあります。
副作用として間質性肺炎に注意しなければなりません。がん治療で普及が進む免疫チェックポイント阻害剤でも、間質性肺炎の副作用が生じることがあります。2カ月おきにCTで肺を撮影し、肺炎の兆候を調べる必要があります。他には、血球の減少や貧血、嘔吐や吐き気、脱毛が主な副作用です。将来、乳がん患者の65%程度をカバーできる可能性を秘めた日本で生まれた画期的な新薬です。

(2021年12月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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