人工光合成の実用化

人工光合成とは、太陽光を使い水を水素と酸素に分解、つくった水素と二酸化炭素(CO2)を反応させて燃料や化学製品などをつくることを言います。この水素は製造時にCO2を排出しないグリーン水素で、化学製品の製造を通じてCO2も直接減らすこともできます。光触媒を使う方式と電極を使う方式の2つに大別されます。人工光合成の研究開発で、日本は世界の先頭を走っています。

脱炭素に向けて注目が高まる水素は、現在その大半をメタンなど天然ガスから分離してつくっていますが、製造過程でCO2を大量に排出するため、グレー水素と呼ばれます。一方、水を電気分解する方法は、再生可能エネルギー由来の電気を使えばCO2を出さないクリーン水素をつくれるのですが、コストが高くつきます。火力発電由来の電気では、やはりグレー水素になってしまいます。
人工光合成は、低コストでグリーン水素がつくることが期待されます。課題のエネルギー変換効率の向上と製造装置の大型化をクリアできれば、天然ガス由来の水素にコストで対抗できます。実用的な化学原料の製造には、安価な水素の確保が不可欠となります。植物が光合成によりでんぷんをつくる複雑な反応の再現は難しく、現在はギ酸などの構造が簡単な化学原料をつくる取り組みがほとんどです。より複雑な化合物の合成に向け、原理の研究が進んでいます。

人工光合成分野の有望な企業・大学の世界ランキングでは、1位に東京大学、2位に富士フイルムホールディングスが入るなど、1~5位を日本勢が独占しています。人工光合成の研究開発で日本は先行していますが、研究者数や予算規模ともに巨大な中国にノウハウが流出すれば、日本の優位が揺らぐ恐れも出てきます。

(2021年10月1日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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