人工神経接続による脊髄損傷の治療の可能性

東京都医学総合研究所の研究チームは、人工神経接続で脊髄損傷患者の歩行を取り戻すための研究を進めています。歩く、座るなどの動作は脳が指令を出し、その信号が脊髄の神経から筋肉まで伝わって可能になります。事故などで脊髄の神経が途切れると、信号も途絶えてしまいます。しかし、損傷した先の神経経路は残っています。脳の活動を解析して電気信号に変換し、傷ついた所を迂回して、その先の神経につなぐことにより、バイパスの配線を作って失った働きを回復させるという試みです。
一部の運動は、脳からの信号がなくてもできることも分かっています。歩行時の細かい筋肉の動きの指示は、脊髄から出ます。脳が出すのは、歩き始める、止まる、歩幅を変えるなどの指令です。その指令は足と同時に手にも伝わります。腕の動きの筋肉活動の信号をとって、歩行にかかわる中枢神経がある腰の部分の脊髄を刺激します。
脳梗塞で麻痺したサルの手が人工神経接続により、再び動くようになる研究も行っています。はじめは上手くいかないのですが、サルはすぐに動かせるようになります。人工的な接続を作ると、脳が適応して、適切な信号を送るようになるとされています。環境変化に対する脳の適応能力は生物の根本的な能力です。それを引き出し、脳卒中や脊髄損傷の患者が再び思うように体を動かせることができるようになるかもしれません。

 

(2022年10月7日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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