体内に常在するウイルスの存在

東京大学の医科学研究所の研究グループは、健康な人の全身に、少なくとも39種類のウイルスが居着いていることを突き止めました。肺や肝臓など主な27カ所で、感染を免れていた組織は見当たりませんでした。想像を超える種類のウイルスは、脳や心臓にまで侵入しています。脳には8種類、心臓には9種類が感染しています。中には風邪の原因にもなるコロナウイルスの一種もいました。胃にもヒトヘルペスウイルス7が多く検出されています。

ウイルスに感染しても発病しないのは、潜伏感染とか不顕性感染といいます。ヒトヘルペスウイルスやボルナウイルスが、潜伏感染するウイルスの代表格です。症状が出るまでの潜伏期間は、最長で数十年に達します。期間が厳密に決まっているわけではなく、感染した人の免疫力が下がると発症する傾向にあります。潜伏の形態の1つに、免疫細胞の標的になるたんぱく質を作らず、遺伝物質の形で身を潜めたり、生物のDNAに自らの遺伝情報を組み込んだりする例があります。潜伏したまま他の人への感染を広げるウイルスもいます。

中高年で悩みがちな帯状疱疹は、乳幼児期に感染した水痘・帯状疱疹ウイルスが原因です。頭や腰の神経節に数十年以上潜んでいます。疲労や加齢で免疫力が下がると動き出します。また、白血病の原因となるヒトT細胞白血病ウイルス1も国内に約100万人の感染者がいますが、生涯の発症率は5%程度とされています。発病していない健康な感染者の存在は、感染症と闘ってきた人間社会にウイルスとの新たな向き合い方を教えてくれるかもしれません。

(2020年6月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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