体性幹細胞の利用

 幹細胞は、体を構成する様々な細胞に変化する分化能と、自分と同じ細胞に分裂できる自己複製能を併せ持っています。受精卵の中にある細胞を取り出して作るES細胞や、皮膚など体の細胞に遺伝子を導入して作るiPS細胞は、体の中のどんな細胞でも作り出せ、多能性幹細胞と呼ばれます。一方、幹細胞のうち、体の中に元々存在し、決まった組織や臓器の中で働くのが体性幹細胞と呼ばれます。体性幹細胞には、赤血球や白血球などの血液をつくる造血幹細胞、神経系をつくる神経幹細胞、骨や軟骨、脂肪などへの分化能がある間葉系幹細胞などがあります。
 体性幹細胞による再生医療としてすでに治療法が確立しているのが、白血病などの治療における造血幹細胞移植です。抗がん剤や放射性治療によって骨髄の造血機能が損傷した患者に、正常な造血幹細胞を移植して回復させます。骨髄液を採取して患者に移植する骨髄移植は、1970年代に開発されています。造血幹細胞は、特別な薬を投与すると全身の血液に流れ出す末梢血幹細胞や、赤ちゃんと母親を結ぶ臍帯と胎盤の中に含まれる臍帯血にも含まれており、それぞれ移植に使われています。札幌医大の研究グループは、2014年より、脊髄を損傷した患者に、自分の骨髄液から分離した間葉系幹細胞を静脈内に投与して神経を再生させる臨床試験を開始しています。

(2017年8月27日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。