児童虐待をなくすためには

千葉県野田市の小学4年が、父親の虐待により自宅で死亡するという悲しい事件が起こりました。背後には、暴力を振るった父親のしつけという説明や、一時保護をしたにもかかわらず自宅に帰した児童相談所の判断など、子どもの安全にかかわる様々な問題が潜んでいます。
虐待によって脳そのものにも異常が生じます。例えば、脳の高度な働きをつかさどる前頭前野の体積が減少し、見通しや予測が苦手になります。虐待で親との間に愛着が形成されないため、緊張を和らげる機能が発達しません。学童期には、落ち着きがなかったり、集中できなかったりして、注意欠陥・多動性障害(ADHD)と似た子どもになってしまいます。青年期には、心身の統一が崩れて記憶や体験がばらばらになる解離や、多重人格障害が表れることもあるなど、一生にわたって傷痕を残すことになります。
社会の中で孤立していたり経済的に苦しかったりすると、ストレスから虐待につながりやすくなります。育児の不安やストレスから、母親がうつ状態になり、児童虐待につながるケースも増えています。自治体は、妊娠届の提出に来た女性と面談し、虐待のリスクが高いと判断した場合は早めに支援することも大切です。たたかれて育った父親が、今度は子どもをたたくようになるケースも多くみられます。いわゆる虐待の連鎖です。警察や児童相談所が介入するには、近所の住民などからの通告が第一歩になります。通告は子どもへの支援という啓発活動が必要です。
子どもの命や権利を守るため、児童相談所は、保護者の同意がなくても、子どもを一時保護する強い権限を持っています。児童相談所で業務を担う児童福祉司には、子どもの状態の深刻さや家族関係などを把握する調査力、家族が抱える困難や虐待のリスクなどを判断するアセスメント力、必要なことから一歩も引かない交渉力、連携を進める調整力などが求められます。
1人の児童福祉司が担当するケースは平均で50件もあり、多い場合には100件を超えます。職員は疲弊し、丁寧な対応ができません。国は、自治体が児童相談所を増やし、優れた人材を確保して定着させるため、設置や運営、児童福祉司の処遇改善の財源を速やかに確保すべきです。児童相談所が常時、弁護士や医師から専門的な助言を受けられる体制も必要です。

 

(2019年2月21日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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