再生医療による脊髄損傷の治療

国内で毎年5千人が新たに脊髄損傷の患者となり、のべ10万人以上いるといわれています。原因は交通事故や転落事故のほか、スノーボードやラグビー、柔道などのスポーツによる外傷などです。今のところ、損傷した脊髄の部位を完全に修復する治療法はありません。損傷した直後だとリハビリなどで回復の見込みはありますが、半年を超えると劇的な回復が難しくなります。現在注目されているのが、細胞移植による脊髄の再生です。

大きく2つの方法があります。自らの幹細胞を用いる方法としては、患者の骨髄液にある幹細胞を分離し、培養したうえで静脈に点滴で戻します。幹細胞は損傷した神経の周りに集まり、炎症を抑えて残った神経細胞の成長や再生を促す成分を出します。札幌医科大学による臨床試験では、損傷から約1~2カ月後の重症患者13人に投与したところ、リハビリを組み合わせることで、完全に麻痺していた患者の手足の運動機能がやや回復するなど12人で症状が改善したとしています。
もう一つが慶應義塾大学のiPS細胞を使用する計画です。神経のもとになる細胞に変化させて培養し、損傷部に直接注射します。脊髄内で神経細胞などに育つことで損傷部の神経が再生し、機能改善を目指します。iPS細胞は他人の体から作ったものなので、免疫抑制剤が必要になります。移植した細胞ががん化するリスクもあり、慎重な対応が必要です。症例を集め、怪我の仕方や損傷部などによってどちらの治療法が適しているかを見極めなければなりません。

(2019年1月11日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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