凍結受精卵による妊娠裁判

別居中の妻が凍結受精卵を無断で移植して出産したとして、40代男性が生まれた女児との親子関係がないことの確認を求めた裁判で、大阪高等裁判所は4月、親子と推定されるとして、訴えを却下した一審判決を支持し、男性側の控訴を棄却しました。
2人は結婚後の2009年に不妊治療を始めました。凍結受精卵で2011年に男児が誕生しましたが、その後夫婦関係が悪化し、2013年から別居していました。別居中の妻は、2014年にクリニックに残る受精卵を男性の同意なく移植して妊娠しました。男性には妊娠5カ月の時点で知らせたと言っています。妻は2015年に女児を出産しましたが、2016年に離婚が成立しています。
控訴審判決は、婚姻中に妊娠した子を夫の子と推定する民法の嫡出推定について、「受精卵の移植段階で夫の同意がないことを(遠隔地に居住していたなど)嫡出推定が及ばないとすることはできない」としています。女児は男性の嫡出子と推定され、これを覆すには別に嫡出否認の訴えを起こす必要があるとして、男性の訴えを退けました。男性は納得できず上告しました。
受精卵の使用について、日本産科婦人科学会は1988年に公表した見解で、受精卵を作ったり母体に移植したりする際は、その都度夫婦双方から同意を取り文書で残すよう求めています。クリニックはその見解を遵守することなく、同意を取らずに融解後受精卵を移植しています。厚生労働省は、法整備に向けて1998年から約5年にわたり審議会を開き、報告書を作成しています。自民党内でも民法特例法案をまとめるなど法制化を目指す動きはありましたが、家族観に関わるテーマのため、意見集約が難しく実現には至っていません。混乱を避けたい医療現場と安心して子育てをしたい夫婦の双方が、納得しできる明確なルールが求められます。

(2018年5月19日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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