出生前親子鑑定に憶う

出生前親子鑑定とは、子どもが妊婦のお腹の中にいるうちにDNAで父親を調べる検査です。最近、妊婦の血液で検査できるようになり、利用者が増えてきています。複数の男性と避妊せずに性交渉した女性が対処に悩んで利用するほか、女性の浮気を疑う男性側が申し込むこともあります。
母体血には胎児のDNAが少量流れており、その配列を解析して男性のDNAと照合し判定します。妊娠8~10週目から検査が可能です。数日~2週間で結果が判明し、法的な中絶の期限である22週未満までには十分間に合います。費用は15万~20万円です。サービスを提供する企業は、インターネットでは10社程度が確認できます。母親の血中に流れる胎児のDNAを利用する点では、ダウン症など胎児の染色体異常を事前に判定する新型出生前診断(NIPT)と同じです。
従来、出生前親子鑑定は、産婦人科医が子宮に針を刺し羊水を採取しなければできませんでした。しかし、この母体血による検査をすれば、男性側に一切知られず親子鑑定が可能となります。男性の検体は、通常口の中を綿棒でぬぐって粘膜細胞を取り調べることができます。しかし、一部の企業では、使用済みの紙コップや歯ブラシ、毛髪なども受け付けています。どの企業も男性側の同意が必須と注意書きに添えていますが、多くは厳密に確認していません。
わが国では、規制する法律もなく野放しで行われる可能性があります。ビジネスが生命の軽視と安易な選別を助長しています。特に親子鑑定や体質判定など、医療目的以外で行う遺伝子検査については法規制がありません。こうしたサービスに対し、安易な中絶を助長しかねないなどと批判もあります。
しかし一方ではリプロダクティブ・ライツとの考えもあります。妊娠は、女性の体に大きなストレスをもたらします。その継続を判断するのは女性の権利です。この検査がその重要な材料になるという側面も否定できません。子どもを産む産まないは女性の権利です。日本では年間17万件の中絶が行われていますが、必ずしも男性側の同意がなくても中絶が行われています。このような出生前親子鑑定は、わが国のリプロダクティブ・ライツを考える上で新たな課題を投げかけています。

(2018年7月30日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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