出生前診断の生命倫理学的考察―Ⅳ

遺伝カウンセリングの重要性
出生前診断においては、多くの社会的・倫理的・法的な課題があることを認識しつつ、検査前のクライアントに中立的立場で様々な立場の意見や考え方、選択肢を提示することが必要である。最終的な決断を下すのはクライアント夫婦自身であり、最終的にその選択を尊重する姿勢が遺伝カウンセリングでは求められる。すなわち遺伝カウンセリングとは、情報提供と心理社会的支援によって、次のステップへ納得して進むことを支援することといえる。この問題提起から選択肢の提示、さらにクライアントの決定に至るプロセスを相互に確認することが不可欠であり、心理・社会的援助も重要な要素である。
それぞれのクライアントが出生前診断に至る経緯と心理社会的背景は実に多様である。高齢で初めての妊娠、出生前診断についての知識もなく受診した場合、子どもが先天異常症を有していて出生前診断について詳細な話が聞きたいと受診した場合、あるいは妊娠後期になって超音波検査で異常が見出されての出生前診断の場合など、クライアントによって遺伝カウンセリングを受ける状況は全く異なる。また、同じ医学的経過であっても、家族的、社会的な背景や価値観、障害や病気に対する見方、性格などは、当然のことながらすべてのクライアントで異なる。
出生前診断によって疾患が判明した場合、説明のためには疾患に関する最新の医学的情報を得ることが必要となる。その疾患の病因、頻度、自然歴、遺伝性、サポートグループの有無などについての最新の知見の説明や情報提供が、遺伝カウンセリングには要求される。また出生前診断における疾患の診断には、限界があることも伝えなければならない。さらに疾患名は診断できても、知的障害などの臨床症状に幅がある疾患の場合、その子どもがその疾患を有しながら、将来どのように育っていくのかまでは、出生前には分からないなどの事前の説明が大切である。
出生前診断においては、異常が認められた場合には妊娠の中断が考慮されることがあり、生命の選別という倫理的問題も含んでいる。重篤な疾患と診断された後に妊娠の中断を望む場合、どの疾患を重篤とするのか、どのような場合にその要望に応じるのかなどの明確な判断基準がなく、慎重な対応が必要となる。遺伝カウンセリングは、出生前診断におけるクライアントの不十分な理解や誤解による不利益を防止し、正確で十分な情報提供によって自律的な意思決定を支援するために大きな意義を有している。

(吉村 やすのり)

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