医の倫理について考える―Ⅳ

医療における自律の原則
 自律の概念は、個人の選択、プライバシー、意志の自由といった意味で用いられるが、自己決定と同義であると考えてよい。自己決定とは、当人が熟慮の上で重要であるとみなした価値に合致していると考えて下す判断である。自律とは自分自身の行動形態の一つと考えられ、自律の原則とは自分自身で選択した計画に従って行動することである。自律を尊重する者にとっては、自律の原則は、自分たちの利益をもたらすために必要とされるいかなる倫理的義務にも優先するものである。しかし自律の権利を行使するためには、自己の行動について熟慮する能力、実行する能力、そして自己決定から生ずる結果に対する責任を取る能力を具備していることが前提となる。
 通常の医療であれば、医師は自己の倫理観に大きく背くことがない限りにおいて、患者自身の判断に従って患者に恩恵を与えるべきであると思われる。一方、ある特定の行動が最善の利益に適うものであることが証明されないとしても、自分の選択どおりに行動する自由を欲する人々がいることは明白である。しかし、自律の原則は、個人が自分自身の運命を支配しコントロールすることも肯定するものである。つまり、自律の原則により要求されるのは、自分自身の生命および身体に対して自分自身が責任を負うという強い意志でもある。
 一方、人が自分の個性を尊重しようとする際に自律性を強調しすぎると、社会や家族から孤立することもありうる。究極的には自己の行動に責任を負うことは当然であるが、社会の枠組みも個人が自己決定を行う際に尊重すべき義務なのである。生殖医療で誕生するのは子どもである。生まれた子どもには意思決定の能力が与えられていない。この場合には自律の原則は何ら効果をもたない。この場合に医療者にできることは、善行の原則に立ち戻り、何が生まれてくる子どもやクライアントの利益に適うかについて、得られる最善の客観的判断に従い、選択が行われるようにすることである。

(吉村 やすのり)

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