医師の働き方改革に憶う

厚生労働省の検討会は3月末までに結論をまとめる予定ですが、一部の病院に一般労働者の2倍となる長時間残業を容認する案をめぐり、議論が起きています。働き方改革関連法による残業時間の罰則付きの上限規制は、今年4月から順次始まります。医師は仕事の特殊性から5年間の猶予が認められ、2024年度から適用されます。厚生労働省は1月11日の検討会で残業時間の上限案を提示しています。通常の医療機関の勤務医は、一般労働者と同じ年960時間(休日労働を含む)とする一方、救急などの地域医療を担う病院の勤務医は暫定的に年1,900~2,000時間としました。医師不足の解消が見込まれる2035年度までの特例です。残業時間の制限と合わせて、連続勤務時間は28時間までとし、勤務から勤務まで9時間のインターバル(間隔)を空ける規制も提案されています。
地方の医師不足は深刻です。地域の救急医療や周産期医療などを担う病院は、医師の長時間労働によって支えられていると言っても過言ではありません。しかし、年1,900~2,000時間という厚労省の提案は、普通の勤務医の2倍の長時間にあたり、今後、議論を深める必要があります。特例を認めるからと言って、長時間労働を放置し、医師の健康管理を後回しにしてよいということにはなりません。最大の課題は、医師が都市部に集中し、地方に少ないという地域偏在です。都市部に偏る傾向を是正しなければ、地方で働く医師は今後も恐らく足りないままです。
医師の働き方改革には、患者の医療へのかかり方が大きく関係しています。患者や医療者の意識改革をどう進めていくかという視点が重要です。長時間労働を強いられる医療現場の効率化のため、患者一人ひとりが協力できることは決して少なくありません。いつでもどこでも受けられる医療体制そのものを見直すことも必要になります。
医師の負担を減らすには、看護師や薬剤師、臨床工学技士など様々な職種が専門性を高め、医師の仕事の一部を担うタスクシフティングが必要となります。また、女性医師が仕事を続けるには、子育てと両立できる環境が大切です。今は女性医師の増加に伴って、院内保育や復職支援なども着実に広がっており、周囲の理解は進んでいます。男性医師も育児や家事、介護に積極的に取り組めるよう、医師全体の労働環境を改善する必要があります。男性医師が働きやすい職場にならなければ、女性医師にも本当の意味で働きやすい環境にはなりません。

(2019年2月1日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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