医師の時間外労働

 県立奈良病院の産科医が当直に対する割増賃金の支払いを求めて提訴した訴訟で、一審の奈良地裁、二審の大阪高裁はいずれも、当直時間の4分の1は労働していること、待機時間も呼び出しに応じる義務があるなどとして当直を労働時間と認定しました。県は上告しましたが、2013年に最高裁が退け、当直は労働時間と判定されました。

 医療現場は、こうした外圧で働き方改革を迫られるようになってきています。時間外勤務としてきた当直などが労働時間と判断され、夜勤委託や残業規制の動きが広がってきています。政府は、3月の働き方改革実行計画では、医師は罰則付きの時間外労働規制の対象としますが、改正労働基準法施行から5年は適用を見送るとしました。患者への対応が、医師法で義務付けられていることを踏まえているからです。医師以外の看護師などは、会社員と同様に改正法の施行で年720時間、月平均60時間の残業規制の対象となる見込みです。日本看護協会は、勤務が13時間を超える2交代制や夜勤回数などの見直しを求める要望書を政府に提出しています。
 医師の院内滞在期間の延長は、医師の疲労を招き、本人の健康に加えて医療事故にもつながりかねません。そのため、病院による適切な管理は当然必要となります。しかし、時に夜間の救急患者に対応する医師の数が減少することにより、救急患者の受け入れに影響が出る可能性があります。医師の数を増やせばよいのですが、医師を獲得できる病院ばかりではありません。また病院の経営上の問題点も残ります。時間外受診や救急受診を減らすことにより、医療の現場の負担を減らすという国民の意識改革も必要です。若手医師の技術向上には、手術の技術を身に付けるためのシミュレーターなどの訓練は、自己研鑽として必要不可欠です。これも労働基準監督署は労働時間と認定しています。密度の高い訓練を積むことにより、優秀な臨床医が育つのですが、若手医師の育成にも影響が出る可能性があります。
 総務省の調査によれば、職種別で週60時間以上の労働者の割合は、医師が41.8%で最も高くなっています。病院は業務を徹底的に見直し、女性も働きやすい環境にすることが大切です。長時間労働を避け、安心安全な医療を提供するためには、主治医制を見直し、チーム医療への転換が求められます。しかし国民の理解が得られなければ、医療現場の長時間労働は解消しません。

(2017年4月3日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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