医療の地域格差

医療行為をするには医師免許が必要ですが、医師免許があれば、どこに勤務してもどのような診療科を標榜しても個人の自由です。医師偏在の是正策が検討される際、議論になるのが、憲法上で保障される職業選択の自由です。勤務地や診療科を医師個人の意思ではなく、強制的に決められることへの抵抗感が強いからです。地域格差は、2004年に導入された新医師臨床研修制度により、特に問題視されるようになってきました。医師免許取得後の2年間、内科、外科、小児科などで研修します。研修する病院は本人の希望で決まるため、大学病院の医局に所属する医師が減り、地域への医師供給機能が大幅に低下してしまいました。

医師の偏在は、地域における医療提供力の格差を生みます。しかし、無理に若手医師に医師不足の地域への勤務を求めても、医師の士気は下がるだけです。格差是正には、自治体や住民も変わる必要があります。必要であれば病院を統合・再編し、医師の研修機能や提供される医療機能を向上させる必要があります。

そのためには、いつでもどこでも医療が受けられるといった意識を変えなければなりません。高齢者の増加や財政を踏まえれば、現在のような低負担で高品質を求める医療はいつまでも続きません。地方自治体も地域にどのような医療や介護の課題があり、解決には何が必要かを考えていくことが大切です。不足する医療や介護の人材の育成に地域ぐるみで取り組むべきです。医療に何を期待して、何を我慢するのかは、国民のコンセンサスが必要です。
人口が減少しているから、財政効率化の視点で医療提供体制を縮小しようという考え方もあります。しかし、医療や介護のサービスがなければ、子育て世代や高齢者が暮らせない地域になってしまいます。結果として地域の消滅を加速させてしまいます。企業誘致が難しくても、医療や介護を提供する場があれば、雇用も生まれます。

(2018年6月23日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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