医療行為の費用対効果

米タフツ大学とハーバード大学の研究者は、2000~2005年に発表された約600の研究で示された1,500の医療行為の費用対効果を検証しています。その結果、予防、治療にかかわらず、健康の向上と医療費削減の両者を達成できる医療行為が約2割あることが明らかになりました。これらに関しては、受ける人の数が多くなればなるほど、国民の健康を改善させながら医療費も節約できるため、費用と効果のトレードオフ(相反)は存在せず、一人でも多くの人が享受すべきものと考えられます。
一方で、約8割の予防医療は、医療費を削減する効果がないことが明らかになりました。しかし、この中には、費用対効果に優れるもの、すなわち比較的少額の医療費で大きな健康増進効果が得られるものが約6割含まれています。病気にならずに健康を維持できるということに対して価値を認める人は多く、小さな費用でそれを達成できるものは正当化されるため、これらは財源が確保できる限り、提供されるべきだと思われます。また多少の費用がかかっても、それによって健康が維持でき働き続けることができれば、人は経済活動を通じて税収や保険料に貢献したり、介護費の節約につながったりする可能性があります。
しかし、予防医療は画一的なものではなく、価値の高いものである健康が増進し、医療費節約につながるものが含まれます。日本では、予防医療が医療保険の対象外であるため、費用対効果に優れるものであっても、国民が受けるには高額な自己負担を求められることがしばしばあります。エビデンスの不十分な予防医療に対する財源を減らす一方で、エビデンスのあるがん検診やワクチンなど費用対効果に優れる予防医療に対しては、国で十分な財源を確保することが大切です。

(2018年12月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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