受精卵の遺伝子改変

 核移植やゲノム編集など、受精卵の遺伝子改変を可能にする技術が開発されています。一つは遺伝性ミトコンドリア病の予防のため、ドナーの卵子の核を抜いて母親の核を移植し、父親の精子と受精させる手法です。もう一つは、受精卵の病気の原因となる遺伝子異常を修復する手法です。ミトコンドリア病の予防のための核移植法は、英国が、20152月に賛否拮抗する中で、議会が予防治療目的に限って解禁しています。受精卵の遺伝子改変に難色を示してきた全米アカデミーも、昨年2月に英国に追随する答申をまとめましたが、連邦政府は認めていません。受精卵という人間になりうる存在を操作する是非に加え、同意を取れない子孫に未知のリスクを残すことや、デザイナーベビーなどの安易で恣意的な応用の懸念が残ります。
 受精卵は、2004年の政府の生命倫理専門調査会の報告で、生命の萌芽と位置付けられており、慎重な扱いが求められる存在です。近年急速に普及したゲノム編集は、安価で簡便に改変が可能となってきていますが、医学的な安全性・確実性については疑問が残ります。また、倫理面の課題などが解消されないまま、受精卵や精子、卵子が改変される可能性があります。さらに核移植技術は、遺伝性疾患だけではなく、加齢による不妊の改善に利用されようとしています。

(2017年9月14日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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