在宅勤務を増やすためには

4度目の緊急事態宣言が発令され、政府はたびたび企業に出勤7割削減を要請していますが、その動きは鈍いままです。コロナ禍での在宅勤務の状況は、大企業・上場企業は制度導入を加速させていたものの、実際の利用者は少ないという現実があります。2020年4月の緊急事態宣言を契機に、在宅勤務の利用割合は一気に高まりました。緊急事態宣言の解除を受けていったん低下はするものの、それ以降は緊急事態宣言下でも高まる気配がみられていません。
これには、コロナ前における在宅勤務の整備状況に格差があったことが大きく影響していると考えられます。コロナ以前から制度の整備を進め、従業員もテレワークの経験がある場合、コロナ下でも在宅勤務の割合をスムーズに引き上げることができたと思われます。一方、準備不足の企業の場合、在宅勤務を従業員に強制しても、在宅勤務に必要なインフラが整っていないばかりか、経験もないためうまくいかないことは容易に想像できます。
コロナ前からの在宅勤務利用比率が高い企業の特徴として以下の6条件が考えられます。①理由に関係なく在宅勤務が可能、②フレックスタイムの導入や副業・兼業の容認など、多様で柔軟な働き方、③会議資料の完全電子化、フリーアドレスなど技術的インフラの整備、④平均休暇取得日数が多い、有給5日以上取得率が高いなど休暇を多く取れる環境、⑤ダイバーシティ(多様性)施策を多く行っている、⑥企業が実施する在宅勤務関連施策に対して従業員の理解・認識が浸透しているなどです。
コロナ下での在宅勤務利用比率については、①コロナ前の在宅勤務利用率が高い、②情報端末機器の整備が行われている、③在宅勤務へのサポート施策が多い企業ほど高いことが分かっています。コロナ前の在宅勤務利用率が高い、貸与モバイルパソコン配布数が多い企業ほど、稼働率が高く、人員調整を行わないことも分かっています。
ダイバーシティ施策を含む人材関連施策において先進的な取り組みを行っている企業では、必ずといって良いほど在宅勤務などのテレワークに積極的に取り組み、理由を問わず広く従業員が在宅勤務を行える制度を導入しています。在宅勤務への取り組みが、当該企業が人材関連施策をどの程度進展、深化させているかを判断するためのリトマス試験紙と言えます。
デジタル化の徹底、時間・場所によらない多様で柔軟な働き方の推進、従業員のウェルビーイングへの配慮が大切です。ダイバーシティ施策に熱心に取り組んだり、企業と従業員の相互理解に努めていたりする企業、従業員のウェルビーイング向上を重視する企業では、在宅勤務利用も進んでいます。

(2021年9月15日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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