地方創生のためには

 人口の自然減が続けば、地域は維持できません。地方創生の課題は、出生率と出生数の低下に基づく人口問題です。人口減少時代の最も深刻な問題は、人が住まなくなる地域や人口密度が極端に低いエリアの増加です。2050年の全国1㎢ごとの人口を国土交通省が試算しています。2010年に人が住んでいた地域のうち北海道では47%、四国では25%、首都圏でも7%が無人化すると推計しています。国立社会保障・人口問題研究所の報告によれば、現在存在する1,800市区町村のうち、2040年には半減し、894に減少してしまうとされています。
 出生率の地域格差は、将来の地域経済の発展力格差につながります。出生率の上昇なくして地方創生は望めません。地方の活性化のためには、地域の人口、年齢構成、医療や生活水準を保つ事業の維持が必要になります。安倍内閣が示した希望出生率1.8を上回っているのは沖縄県だけです。次いで山陰や九州の県の出生率が比較的高く、逆に首都圏や北海道、東北は低くなっています。日本の出生率を上昇させるために首都圏から地方に人口を移動させるべきとの考えもあります。しかし、都市化は世界的な現象であり、サービス経済の時代に事業所や雇用が都市に集中するため、都市部への若い世代を中心とした人口流入は避けられません。総務省の人口移動報告では、東京圏への転入超過は2016年に117,868人に増加し、一極集中に歯止めがかかっていません。
 首都圏、とりわけ東京都の出生率は全国最下位として問題視されてきました。今後は大都市圏への人口流入を規制するのではなく、大都市における出生率の向上を目指すべきです。企業や鉄道事業者なども、子育て支援制度を充実させたり、保育所を設置したりすることで出生率の向上に寄与することができます。大都市圏にはそうした新しい公共が多数存在します。東京都などの大都市における出生率の向上は、わが国の少子化の危機を突破するための新しい道かもしれません。

 

(2017年6月28日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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