女性手帳報道に憶う―Ⅲ

現在、2002年をピークに10代の性感染症や妊娠の頻度は減少しています。これは一部にはこれまでの性教育の成果も否定できませんが、それよりも性行為を行わない男女が増加していることが一因と考えられます。20代の男女においても同様の現象が推測されます。これは忌忌しき問題です。妊娠を、望まない妊娠、避妊というネガティブな切り口で捉えるものではなく、いかにしたら妊娠できるか、妊娠することの素晴らしさといったポジティブな考え方で若い時から教育することが必要だと思います。文部科学省は平成26年度より高等学校の保健体育における妊娠・出産に関する学習指導要領を変更することになっていますが、以前のものと比べると一部改善がみられるものの、生殖に関する知識の啓発という観点からは十分とはいえず、若い男女が妊娠現象を考える上で有用な情報手段とは全く考えられません。

今回のマスコミ報道をみて、結婚・妊娠・出産という重要な生殖といった行為は個人的な問題であるため、政策による介入が極めて困難であると感じました。しかし、一人の産婦人科医として憶うことは、男女ともにもっと自分のからだのことをよく知ってほしいということです。現在の生殖年齢にある男女は何も教えられることなく育ち、40歳を超えても普通に妊娠できると考えている人が多いのには驚愕します。学校教育で教えられることには限界があります。これまでの多くの患者さんの診療に関わってきた医師として、啓発活動の重要性のみならず、その伝達方法や手段を今一度考え直す必要があると思いました。国民が必要とする情報の提供手段は、社会のコンセンサスが得られるような方法が考えられるべきです。またマスメディアには生殖に関する医学的なエビデンスをもう少し理解され、一面的な見地から批判するのではなく、国民に対し教育、啓発を促すような報道を心掛けていただきたいものです。

わが国の少子化は、世界に類をみないスピードで進行しています。2055年には総人口は9000万人を切り、生まれる子どもは50万人以下となり、65才以上の高齢化率は40%を超えるようになります。このままでは国家存続の危機です。少子化は女性の未婚化、晩婚化のみならず、複合的な要因が考えられます。この危機的状況を国民すべてが認識し、自分ゴト化して少子化問題に真摯に向き合うことが大切です。    おわり

(吉村 やすのり)

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