女性活躍への道―Ⅲ

床の張り付きとガラスの天井
人的資本量の違いで説明できない男女間の賃金格差は、賃金分布の中位よりも上位や下位で大きくなります。賃金分布の下位で説明できない男女間格差が大きいことを床への張り付き(sticky floor)、逆に上位で男女間格差が大きいことをガラスの天井(glass ceiling)と言います。欧州では床への張り付きが観察される国は、イタリアやスペインなどに限られることが明らかにされています。わが国は、ガラスの天井と床への張り付きの両方が観察される先進国では特殊な国とみなされています。
人的資本の差をコントロールしても、女性の中で上位10%である女性の賃金が、男性の中で上位10%である男性の賃金よりも低いという状態が起きています。この状態は、女性の中では高賃金だとしても、男性ほどには高賃金の仕事に就けていないことを意味します。賃金分布の上位で説明できない男女間格差が観察される場合、ガラスの天井があるととらえられます。逆に賃金分布の低位で説明できない格差が観察される場合、床への張り付きがあると考えられます。低賃金の女性は、低賃金の男性と比べても、低い賃金しか得られていないことを意味します。
近年、床への張り付き現象は弱まっています。逆に分布の高位と中央での男女間格差の差は拡大し、ガラスの天井現象はより強く観察されるようになっています。こうした現象は、日本だけでなく米国、英国、カナダでも観察されています。将来の幹部候補が配属される花形のポストがある一方、さほど重要ではないポストや名ばかり管理職のようなポストもあります。女性は、後者のポストに配属されている可能性が高いとも考えられます。男女間賃金格差の解消には、外形的な働き方の男女差の解消を目指すだけでは不十分です。

(2020年7月30日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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