嫡出否認の訴え

民法774条において、夫には、生まれた子との父子関係を法的に否定する「嫡出否認」の権利が認められています。夫だけが、この嫡出否認の訴えができる民法の規定は違憲として、神戸市の女性らが国に損害賠償を求めた訴訟を起こしました。しかし最高裁第2小法廷は、女性らの上告を退ける決定をしました。
民法は結婚中に妻が妊娠した子は、たとえ夫以外の男性との間の子だとしても法律上夫の子と推定する「嫡出推定」を定めています。この父子関係を法的に否定する嫡出否認の権利は夫には認められていますが、妻や子には認められていません。こうした規定などがあるため、出生届を出さず、子どもが無戸籍になるケースが相次いでいるとの指摘もあり、法制審議会の部会が見直しに向けて検討を始めています。
今回の原告は女性と娘、孫2人の計4人です。女性は夫の暴力から逃れて、別居中の1980年代に別の男性との間に娘をもうけました。離婚後、男性の子として娘の出生届を出しましたが、嫡出推定の規定により不受理になりました。暴力を恐れて元夫との関係を断っていたため、娘と孫2人は長期間無戸籍となり、元夫の死亡後の2016年に戸籍を取得しました。訴訟で原告側は、妻や子も嫡出否認の訴えを起こせれば、無戸籍にならなかったと主張しています。一方、国側は妻や幼い子に嫡出否認の権利を与えると、扶養や相続などの権利が子の利益に反して奪われる事態も生じうるなどとして、規定には合理性があると主張していました。
二審の大阪高裁判決は、父子関係を法的に早く安定させるため、嫡出否認の権利は限定的なのが望ましいと指摘しています。夫と子は嫡出推定で法的な父子関係となり、扶養や相続などの権利義務が直接生じる点を踏まえ、嫡出否認の権利を夫のみと規定することに合理性があると判断しています。妻子に嫡出否認の権利を認めるかは、国会の立法裁量に委ねられるべきだとしました。今回の最高裁の決定により、嫡出制度のあり方を国会の立法裁量に委ねた司法判断が確定したことになります。

(2020年2月8日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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