子宮移植を考える―Ⅲ

子どもをもつ第3の選択肢になるか
海外での先行事例を見ると、母親や姉がドナーとなる例が多くなっています。子宮移植という選択肢ができることで提供者になりうる親族に心理的な重圧がかかる懸念もあります。子どもを産むことが女性に必須の役割とする家族内や社会の圧力が増す恐れもあります。近しい存在だからこそ自由意思を通せなくなる恐れが出てきます。そのため報告書は、ドナーが自らの意思で子宮の無償提供に同意することを必須条件としています。子宮移植で自らの子どもをもちたいという希望を叶えるのではなく、特別養子縁組などにより、子どもを育てるという選択肢を考慮されてもしかるべきです。
首尾よく技術として確立しても、それが社会でどの程度支持され、広がりを持ちうるかも気がかりです。移植を受けたくてもドナーが見つけられない人も当然予想されます。移植のための費用は約2千万円とされ、だれもが受けられる医療行為ではありません。2008年の日本学術会議生殖補助医療の在り方委員会での代理懐胎の審議結果にあるように、子宮移植も禁止ではなく、試行は考慮されて良いかもしれません。しかし実施にあたっては、生体移植をする以上は相当厳格に条件を決めたうえで進めるべきです。市民にも開かれた議論の場を設け、調査などを通じて社会の意識を探りながら合意形成に努めることが大切です。

(生命倫理を考える ― 生殖医療の進歩の中で ―)
(吉村 やすのり)

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