子宮移植を考える―Ⅴ

法的課題―①
 わが国においては、1997年に脳死体からの臓器移植を法的に認めた「臓器の移植に関する法律」いわゆる臓器移植法が成立した後においても、生体移植が移植医療の中心を占めています。最も多く実施されている肝移植や腎移植においても、生体移植が行われています。その理由は、死体からの移植についてのドナー不足と、生体移植には脳死問題を回避することができ、しかも臓器の生着率が死体移植に比べて高いというメリットがあることに起因しています。しかし、生体臓器移植は法律上の整備がなされておらず、生体移植をめぐる法律上の諸問題の解決は、既存の法律の解釈論に委ねられています。
 子宮移植も肝移植や腎移植などと同様、生体移植の一つでドナー、レシピエント双方に対する外科手術という医的侵襲を伴いますので、医療行為の正当化のための判断が必要となります。生体移植の法的正当性については、治療行為論と被害者の同意論が考慮されねばならないとされています。治療行為とは、患者の治療のために医学上一般に承認されている方法によって患者の身体に加える医的侵襲のことです。医師が正当な治療行為として手術を行う場合、それが傷害罪の構成要件に該当したとしても、違法性は阻却されます。その理由は、治療行為によって維持・増進される患者の生命・健康という身体的利益の方が、その行為によって侵害した患者の身体的利益よりも大きいという優越的利益の原理にあります。

(吉村 やすのり)

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