子宮移植

 病気などで子宮がない女性に、第三者から移植して妊娠・出産につなげる子宮移植の臨床研究に向け、慶應大学のチームが年内にも学内の倫理委員会に計画の申請を目指しています。子宮移植は、女性から卵子を採取し、体外受精させて凍結保存した後、第三者から提供された子宮を女性に移植します。1年近く免疫抑制剤を投与して、子宮が拒絶されずに機能することを確認し、受精卵を戻します。対象者は、生まれつき子宮がない病気であるロキタンスキー症候群や、がんなどで子宮を失った女性です。国内では出産適齢期の2030代で5万~6万人と推計されています。
 海外では2000年にサウジアラビアで初実施されました。スウェーデンで、2014年に子宮移植を受けた女性から最初の子どもが誕生し、これまで女性5人が計6人を出産しています。慶應大学チームは母親など親族からの提供を想定しています。年を取ると卵子は老化しますが、胎児を育てる子宮の機能は閉経後も残ります。ホルモンを補充して子宮内膜の着床環境を整えれば、妊娠継続は可能です。スウェーデンの例では、提供者の平均年齢は53歳で、最高齢は62歳です。
 子宮移植の実施にあたっては、医学的安全性や倫理的にも問題が残ります。移植手術に関して、提供者の手術時間が平均10時間を超え、出血量も多量になることもあり、リスクを伴います。また移植がうまくいかず、子宮を摘出しなければならないケースも少なくありません。また、免疫抑制剤の影響も懸念されます。一般的には妊娠の際、拒絶反応を抑える免疫抑制剤の投与は禁忌ですが、子宮移植では使用し続けなければなりません。これまでに生まれた子の健康上の問題は報告されていませんが、長期的影響は検証されておらず、安全性に問題がないとは言いきれません。
 技術的に可能であったとしても、倫理面の課題は多く残ります。生命の維持ではなく、妊娠・出産目的で健康な第三者の体にメスを入れることができるかという問題です。生体移植では提供者の身体的負担が最も懸念されます。海外では提供者が脳死の人の場合もありますが、日本の臓器移植法は脳死を含めた死者からの子宮の提供を認めていません。現状では生体移植の提供者は親族に限られると思われますが、性同一障害で男性への性別適合手術を受ける女性から、摘出した子宮を自発的に提供したいという申し出もあります。

(2017年6月1日 毎日新聞)
(吉村 やすのり)

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