子宮頸がんワクチンパンフレットの改訂に憶う

 厚生労働省は、2018118日に子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)に関する国民向けの情報提供パンフレットを改訂しています。改訂版は専門家部会で審議された内容が盛り込まれ、接種を考えている人用、接種の直前用、医師用の3種類あります。ワクチンは子宮頸がんの主な原因ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症を予防するため、呼称を「HPVワクチン」に統一しています。
 子宮頸がんは年間の約1万人が罹患し、約2,700人の女性が亡くなっており、HPVウイルス感染によって引き起こされます。わが国では2011年に公的補助を開始し、20134月より小学6年から高校1年までの女子を対象に定期接種となりました。しかし、ワクチンを打った少女の親達から、けいれんや記憶力低下など神経の異常を思わせる症状が始まったとの訴えが相次いだことにより、わずか2ヶ月で、厚生労働省は積極的な接種の推奨を見合わせてしまいました。その後この問題は、国や製薬会社を相手どった訴訟にまで発展しています。
 今回の改訂では、ワクチン接種によって10万人当たり推計で最大209人の死亡を防ぐ効果が期待されると明記されている一方で、接種後に起こり得る症状は局所的痛みやめまい、失神などがあり、これまで報告された副作用の疑いは、因果関係を問わず3,130人(10万人当たり92.1人)いると説明しています。一部女性が訴えている、広範囲の痛みや手足の動かしにくさなどの症状にも触れ、ワクチン接種後やけがの後に原因不明の痛みが続いたことのある人は、起きる可能性が高いと考えられると注意しています。しかし、これらと同様の症状は、HPVワクチン接種歴のない方においても起こるとしています。
 世界におけるワクチン接種の有効性を証明するエビデンスは蓄積されてきており、WHOからも再三接種を再開すべきとの勧告が出ています。しかしながら、こうした報道は全くされていません。現在ワクチンによる副反応を訴え、苦しむ患者を救済することは、因果関係の有無にかかわらず必要です。しかし、現在のHPVワクチンの接種率の低下は、本来救えるはずの命を救うことができなくなることを意味します。HPVワクチンを接種できなかったことによる不利益を被る女性に対して、誰が責任を取れるのでしょうか。今、HPVワクチンの接種を推し進めても、副反応に苦しむ患者達を切り捨てることにはなりません。これは次元の異なる問題です。公共の福祉に関するHPVワクチン接種の問題は、感情ではなく、科学を持って対処されるべきです。
 改訂のパンフレットには、HPVワクチンに関する正しい知識を国民に伝えようとする努力は感じられますが、依然と「HPVワクチンは、積極的におすすめすることは一時的にやめています」と明記されています。このようなパンフレットを目にして、果たして子どもさんや保護者の方々はHPVワクチンを受けたいと思うでしょうか。HPVワクチンの有効性や安全性に関する正しい知識でもって、親や子ども達の不安を取り除き、正しい理解を促すための取り組みが期待されます。そのためにも全てのマスメディアには、マスコミリテラシーを発揮していただきたいと思います。

(吉村 やすのり)

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