子育て先進国フランスから学ぶもの―Ⅱ

子育て支援に対する国民負担
フランスの手厚い子育て支援を実施するための財源に関して、現物給付・現金給付のシステムを支えるのは、疾病・失業などのリスクを包括するフランス社会保障制度のうち、家族部門を専任で担う財政機関である家族手当金庫です。その財源は、約6割超を民間企業が国に収める目的税である社会保障負担金でカバーされ、企業の負担率は雇用労働者給与の約30%にも及んでいます。
民間企業が公的な家族支援の財源を担う背景には、その恩恵を必要とするのが、他ならぬ民間企業だからとの認識があります。労働者のワークライフバランスを良好に保てるか否かは、労働力の安定供給に直結します。また労働者の世代更新が円滑になされることは、事業の継続性・将来性を大きく左右する要素です。この認識は官民で共有され、家族政策の財源は長年、9割以上が民間企業に担われてきています。
手厚い子育て支援を管轄する専門財政機関が設けられ、それが民間企業の高い貢献度で維持される一方、その他の老年・疾病・失業などの社会保障制度を支えるために、フランスでは納税者一人ひとりが相応の負担を負っています。日本の財務省の調査によれば、2016年フランスの公的負担における対GDP比国民負担率は47.7%に比較し、同年の日本は31.2%と、その高負担ぶりが数字に表れているに過ぎません。
フランスでは、充実した社会保障を維持するための国民負担は少なくありません。この国民負担の大きさはフランスで常に議論されているものの、子育て支援を厚く充実させることに関して、強い異論が上がることはほとんどありません。単身者や子どものいないカップル世帯は年々増え、同性婚が2013年に法制化されてからは、結婚が子どもを持つ前提条件ではなくなっています。個人として子を持たない選択をする人は少なくありませんが、それでも子どもは社会で育てるものとの社会的合意は固く、揺るぎのないものです。
子どもは社会にとって大切な存在、そして子育ては親だけではできないほど、大変なことと考えられています。子どもは成長すれば、有権者そして納税者として、フランス社会を担う大人になります。大規模な社会保障システムを継続的に支えるには、子どもが大人になる世代更新が不可欠です。また、子どもの認知・非認知能力の成長には、大人が寄り添った上での教育が不可欠ですが、そこには知識や専門性が必要であり、親のみでは到底担いきれません。
子どもは社会で育てるものというフランスの合意は、親の子育て能力を全面的に信用しない科学的な根拠と、合理的な思考によって形成されてきています。フランスでは、子育てを親だけに託す弊害と社会で分かち合うことの意義が、広く理解されています。
わが国では、育つ子どもたちを出自や血縁を超えて必要な存在と認め、社会で育てる仕組みを作り、そのための負担を分かち合う認識を、国民の間に醸成できているとは思えません。少子化の流れを止めるには、より多くの人が産める、育てられると感じられる子育て環境が必要です。子育てを親の義務という固定観念から解き放ち、社会の責任へと昇華することが必要です。

(Wedge December 2021)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。