家族関係支出の国際比較

 安倍政権の人づくり革命では、子育て支援として、35歳児向けの幼稚園、保育所など認可施設の利用料を一律無償化し、02歳児向けには住民税非課税世帯に限って無償化します。待機児童対策として2020年までに32万人分の保育の受け皿を用意します。教育支援としては、大学など高等教育機関の入学金・授業料を低所得層に限定して無償化し、給付型奨学金も整備します。私立高校の授業料も低所得世帯に限り無償化します。これらには総額2兆円を超える財源が必要となります。このうち1.7兆円は201910月に予定されている消費増税の増収分を充て、残りは企業の拠出金でまかなうことになります。
 GDP比の家族関係支出を概算すると、約1.3%から1.5%へと増え、経済協力開発機構(OECD)平均に少し近づいています。児童手当、育児休業給付などの現物給付を増やす点も、先進国の政策動向に沿っています。保育無償化より待機児童の受け皿整備を優先すべきだという声もありますが、家族政策全体の規模はまだ他の先進国より少ない状況にあります。少子化のインパクトを考えれば、受け皿整備と無償化は、車の両輪として進めるべきです。しかし、約8千億円の財源が必要となる高等教育の一部無償化は評価が分かれます。高等教育への公的支出が先進国で最低水準なのは確かですが、授業料無償化が高等教育の機能を高める上で最善かどうかは、さらなる検証が必要となります。
 今回の子育て・教育支援策は、実質的には将来世代への負担の先送りによって可能となった面があります。子育て・教育支援は、産業構造の変化による新しいリスクに対応するための政策であり、本来は労働市場の流動化や、労働時間の柔軟化との組み合わせで機能するものです。個々の子育て・教育支援策は画期的であると思われますが、他の政策との連携が必要になります。

(2017年12月28日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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