少子化が招く人手不足

人手不足で最も重要なのが生産性の向上ですが、これを後押しする労働市場改革はほぼ手つかずの状況です。継続的な人口減少局面に入ってからすでに14年たったのにもかかわらず、労働力不足を克服し、年金、医療、介護の機能不全を防ぐ道筋は見えていません。パーソル総合研究所らの労働市場の未来統計によれば、製造業は38万人、医療・福祉は187万人、サービス業は400万人など、日本全体の人手不足は2030年に644万人に上る見通しです。
今までは一人ひとりの仕事を増やしたり、業務を効率化したりすることでしのいできましたが、もはや現場の頑張りでは到底持ちこたえられない状況に陥っています。生産や物流は滞り、小売店では商品が欠品しがちになります。病院の待ち時間はどんどん長くなり、親が介護サービスを受けられずに離職する人が続出するような事態が増えていきます。
人手不足の解決策は4つしかありません。働く女性を増やす、働く高齢者を増やす、日本で働く外国人を増やす、生産性を上げることです。高齢者雇用は、年齢を理由に差別されない労働市場づくりが課題です。外国人労働者は、日本人との処遇に格差があるなど、外国人に選んでもらえる国にする取り組みが不十分です。
目先の選挙を意識して改革の議論すらやめてしまう思考停止の期間が長すぎます。少子高齢化を克服する改革は、時間との闘いだという認識を持たなければなりません。少子化対策も踏み込みが甘く、このままではゆでガエルになってしまいます。少なくとも向こう数十年間の人口減少は確定的です。国立社会保障・人口問題研究所の長期推計によれば、2053年には1億人を割り込み、2100年には6,118万人と今と比べてほぼ半減します。政府は、子どもを持ちたい人の希望が全て叶った場合の出生率1.8(希望出生率)を少子化対策の目標にしていますが、仮に1.8を実現しても人口減が続くことに変わりありません。日本は人口減を前提とした社会を覚悟を持ってつくっていかなければなりません。

(2022年7月26日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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