少子化が注目されて30年

少子化に歯止めがかかりません。昨年の出生数は86.5万人と過去最低を更新し、出生率は1.36と、人口維持に必要な2.07を大きく下回っています。少子化が社会から注目されて30年が経過しました。1989年の合計特殊出生率は1.57になり、1966年の丙午(ひのえうま)の出生率1.58を下回ったことにより1.57ショックと呼ばれました。以来さまざまな少子化対策が拡充されてきましたが、結果的に改善効果がみられていません。
2000年代に入り第3次ベビーブームが来るはずだと期待されましたが、幻となり最後のチャンスを失ったと悔やむ声が多くみられます。しかし、コロナ禍で激変する経済や一層不安定化する雇用に翻弄され、結婚や子育てがしたくてもできないと嘆く人たちをそのままにしておいては、希望出生率の実現はおろか、日本は若者が希望を持てない国になりかねません。
この30年間で、保育所整備や育児休業など、仕事と子育ての両立支援策は進んでいます。政府は、閣議決定した第4次少子化社会対策大綱で、結婚や出産の希望がかなった場合に想定される出生率(希望出生率、1.8)の実現を目標に掲げたほか、不妊治療や経済的支援の拡充もうたっています。しかし、従来のさまざまな対策が、若者や子育て世代の意識や現実に十分寄り添えていなかったという認識が必要です。
これまでは都市に住む共働き夫婦を念頭に置いた両立支援策が主で、子どもが幼いうちは妻が家で育てたいと望む家庭への支援や、少子化の主因ともいえる未婚化や若者の雇用の劣化への対策が不十分でした。人並みの生活ができそうもなければ、結婚に踏み切れないという若者の心理に寄り添うことが大切です。経済や人々の価値観が関わるだけに、少子化対策に特効薬はありません。今求められているのは、家族や社会における子どもの価値や役割について、改めて一人ひとりが考えてみることが大切です。

(2020年6月21日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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