幼児教育が将来の結婚や所得に与える影響

柴田悠京都大学准教授は、保育所への長期通園が将来の結婚や所得にどう影響するかを独自の調査で検証しています。少子化の主因の一つは、20~34歳の女性の有配偶率の低下と考えられているので、これらの検証は、希望出生率実現や生産性向上というわが国の課題にも直結します。2021年2月にインターネット調査を実施し、全国の20~69歳の男女2万人から回答を得ています。
不利家庭出身者の男性では、長期の保育所通園は将来の有配偶確率には影響を与えませんでしたが、個人年収を上昇させています。一方、不利家庭出身の女性では、長期の保育所通園は有配偶確率を上昇させ、さらに個人年収を低下させています。個人年収の低下は、主に結婚・出産に伴う就業抑制によるものです。つまり、長期の保育所通園が成育環境の改善をもたらし社会情動能力などの発達を助けたとしても、その成果は男性では所得で、女性では結婚で表れています。
こうした状況には、根強い日本のジェンダー(社会的性別)構造が反映されています。女性を経済的に脆弱にしやすいこの構造では、有配偶女性はもし離婚すれば貧困に陥りやすくなります。保育所通園が不利家庭の女児の発達を助けるとしても、それが彼女らの将来の結婚希望の実現だけでなく、不利連鎖からの脱却にもつながるには、女性が就業能力を発揮しにくい日本のジェンダー格差の縮小が必要となります。
保育は希望出生率の実現に向けて既に貢献し、男性の不利連鎖からの脱却や生産性向上にも貢献しています。しかし保育が女性の不利連鎖からの脱却にも貢献するには、社会のジェンダー格差の縮小が必要となります。全ての子どもが安全に育ち健康的に能力を発揮できる社会を実現すべく、子ども庁創設によりジェンダー格差をどう縮小できるかが問われています。

(2021年6月3日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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