幼児教育格差

幼い子どもを子育て中の親の間で、習い事や幼児教室への関心が高まっています。幼児教育熱の背景には、経済が停滞し、格差が広がっている日本社会への閉塞感が関係しているかもしれません。教育に投資することで、現在から将来に至る様々なリスクを避けようとしているとも思えます。習い事の費用は家庭が支出する私費であるため、経済力で格差が生じやすくなっています。世帯収入による教育費支出の差は広がっており、情報を得やすく教室も多い都市部は支出が大きいという傾向もあります。とりわけ日本は幼児教育における私費負担の割合が最も高い国です。
日本の就学前教育支出に占める公的支出の割合は46%に過ぎません。OECDに加盟する約30カ国の中で、最も低い状況です。国は幼児教育の価値を見直し、全ての子どもに保育も教育も提供する努力をするべきです。国は3歳以上の幼児教育の無償化を打ち出しました。無償化を進めれば高い保育料を支払ってきた比較的裕福な家庭への恩恵が大きく、浮いたお金を習い事に使えば、教育格差の拡大につながりかねないとの指摘もあります。
国は今年から幼稚園と保育園、認定こども園の基本方針を改め、いずれも幼児教育を充実させる方針を示しました。幼児期は興味に合わせて遊びながら学び、一人ひとりの成長に気を配ることが大切です。経済的に厳しい家庭の子どもや障害のある子どものために、きちんとケアできる環境を整えることが大切です。そうすれば幼児教育は、社会の格差を縮小する効果を生むのです。これを実現するためには、諸外国に比べて大幅に低い教育への公費支出を増やす必要があります。フィンランドでは多様な家族を支援するため、就学前の子の成長と家族を地域の保健師が支えるネウボラという制度も導入しています。全自治体にあり、人口約550万人の国に約850カ所あります。保健師は定期健診に加え、3~6歳に詳しい発達健診も行います。保育園と連携して子どもの発達状況を確認し、言葉や運動に遅れがあれば専門家につなぐ役割もあります。全ての子どもたちが健やかに育つ権利を保障するためには、わが国においてもネウボラの整備が必要となります。
幼児教育に対する国の政策は、将来どのような社会を目指すかということに他なりません。経済格差によって幼児教育に格差が生まれるような状況は避けるべきです。

(2018年9月5日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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