待機児童の解消に向けて―Ⅱ

待機児童解消策
 宇南山氏の考える待機児童解消策は、保育料の引き上げです。保育料を引き上げて需要を減らせば希望しても入所できない児童を解消できます。保育所の費用負担は、社会福祉の色彩が強く、支払い能力に応じて費用負担する応能原則とされ、負担水準も低くなっています。現行の保育料は、実際に必要となる保育費用を大きく下回っています。世帯の置かれた状況のわずかな違いで、入所の可否が決まる現状では、これ以上の大きな公費投入は制度に対する不公平感を生む原因になるとしています。
 こうした保育料の引き上げは、政府の骨太方針で言及した幼児教育・保育の無償化と明らかに逆行します。少子化の対策としても、保育所を利用する児童の割合は約4割にすぎず、低い保育料は子育て世帯全体への支援となっていないとの意見もあります。しかし、保育所は女性の就労支援、幼児教育、子育て負担軽減など重要な役割を果たしており、結果的に少子化解消や女性活躍推進など社会的に大きなメリットを生み出しています。
 子育てに対する公費負担は、少子化に直面するわが国にとって最優先事項であると思われます。女性の活躍や人的資本の有効活用の観点からは、賃金水準が髙く、就業継続の意欲が強い保護者を優先的に入所させるべきだとの考えもあります。しかし、高キャリア・高収入であるほど保育サービスに対し高い支払い意思を持っていると考えられ、価格メカニズムの方がより効率的な入所者の選択基準となってしまいます。宇南山氏の考えのように、待機児童解消策は、現状の保育料でも低すぎるから利用者が負担すべきであるといった経済的な効率性のみで結論づけられる問題ではないように思われます。

(2017年6月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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